【経営者保証を無力化させる社長の自己破産①】
金属加工業のA社は、私が銀行員になって5年目に担当したお客様です。およそ20名の従業員を抱えて家電製品用の金属部品を製造しており、毎年、売上が10億円程度で安定していました。当時、40代だったA社長は2代目で、すでに亡くなっていた先代はA社長の岳父にあたります。つまり、A社長は奥様の父が創業した会社を継いだわけですが、その経歴は少し変わっていました。A社長は元銀行員だったのです。
金融業界で働いていたA社長にとって、妻の実家とはいえ、ものづくりの現場はまったく畑違いの職場でした。それでも2代目として事業を継ぐことになったのは、岳父が思いがけず急逝したからです。奥様は一人娘だったため、事実上、A社長のほかに後継候補は見当たりませんでした。
もっとも、そうした状況であれば、いつか自分にお鉢が回ってくるのではないかと、事業承継の可能性をひそかに想定していてもよさそうなものですが、まだ還暦を過ぎたばかりだった岳父を襲った突然の不幸であったため、事業承継のことなど誰も考えてはいなかったようです。予想もしなかった事態に直面して、A社長はとにかく従業員の生活を守らなければならないという義務感から、事業承継を決断しました。
当初こそ不慣れな環境に戸惑ったものの、意外なほど早くA社長が事業の全体像を把握するようになったのは、前職での経験が基盤となったからです。銀行員時代に100社を超える取引先の決算書を読み込んでいたことから、A社の経営状態を財務面から理解することができたのです。
ものづくりの経験こそないものの、財務に精通した2代目が事業を承継したことに周囲は安堵しました。メインバンクの担当者である私の目にも、元銀行員という経歴は異色ながら、頼もしく映りました。経営者保証付きとはいえ、A社に対して無担保で融資が行われたのは、その経歴に裏書きされたA社長の能力が信頼されたからでした。
ところが、そうした信頼は意外なかたちで裏切られてしまいました。突然、私の支店に1通のファクシミリが流れてきたのです。差出人は弁護士で、そこにはA社の破産手続きに関する通知が事務的に書かれているだけでした。初めて経験する事態に動転しつつ、私はA社に向かいました(次回に続く)。
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