【経営者保証を無力化させる社長の自己破産②】
金属加工業A社からの1枚のFAXについて、それまでまったく兆候がなかったわけではありませんでした。
第一に、A社に対する融資案件について、銀行のシステムがアラートを発していたのです。しかし、融資に関する判断はコンピュータによって機械的に行われるわけではありません。もちろん、財務状況は詳細に分析されますが、最終的には経営者の人柄や事業の将来性などを総合的に勘案して判断されます。したがって、支店長以下、融資課長も私もA社長の「元銀行員」という経歴を信頼して無担保融資に踏み切ったのです。
また、もうひとつ、私がかすかな疑念を感じたのは、あるとき、A社長がふと「お金が足りない」と吐露したからでした。しかし、A社の業績は安定しており、毎年、黒字を積み重ねています。当面は設備投資や新規採用の予定もなく、A社長や家族の日常生活に関しても懸念すべき噂は聞こえていませんでした。そんなはずがない、と私はそのとき小さな違和感を否定したのですが、結果として、私の判断は間違っていたことになります。A社長は、決算書を粉飾していたのです。
決算書を操作することで経営の実態を隠蔽するという行為が何を意味するのか、その重大さを認識していないビジネスパーソンはいないでしょう。まして、かつて銀行で働いた経験をもつ経営者が、そうした背信行為に手を染めることなど、常識で考えられることではありません。しかし、そのあり得ないことが起こってしまったのです。在庫をはじめ、決算書に記載されていた資産は存在しておらず、無担保で行われた融資は、その一部さえ回収できる見込みはありませんでした。
もっとも、A社長には経営者保証による債務保証が生じています。本来であれば、A社長が個人として債務を返済しなければならないのですが、すでに弁護士を通じてA社長の自己破産が申し立てられており、その後、裁判所によってその申請が認められました。この決定により、A社長は法的に免責されることになったのです。
ファクシミリに驚いた私がA社に駆けつけたとき、そこにはまだA社長の姿がありました。駆けつけた私を目ざとく見つけたA社長は、小さく「すまない」とだけ口にして、間もなく逃げるように去っていきました。その後の消息は、いまもわかりません。
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